あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
「式神を作ればいいだろ。早く!」

 桃子は軽く頷くと、震える手で着物の衿に手を入れる。祓魔師はたいてい何かあった時のために形代を肌身離さず持つしきたりがある。
 琴禰は形代を取り出したものの、手が震えてしまって床にパラパラと落としてしまった。

「何をやっている! 急げ!」

 澄八に叱責された桃子は、涙目で形代を拾う。

 すると、襖が壊れるくらい大きな音を立てて開かれた。

 先頭に腰の曲がった大巫女。それに付きそう女。

 そして後ろには祓魔五人衆の姿があった。しかし、今は澄八がいないので四人衆となっている。

 祓魔四人衆の中でも一番力の強い屈強な男の手には、血に濡れた大きな日本刀があった。いましがた、誰かを殺してきたのは一目瞭然だった。

 桃子は畳に膝をつきながら、恐怖に満ちた目で彼らを見る。

「まさか、お母親を殺したの?」

 震える唇で問うと、日本刀を持った男が自慢気に答えた。

「母親のみならず、家政婦も父親も皆殺しにしてきたぞ!」

 桃子の目は絶望に染まる。そして、次は自分の番であることを悟った桃子は、立ち上がって逃げ出した。

「待て、俺を置いて行くな!」

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