あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
信じたくない気持ちの中、震える手でうつ伏せに倒れている体を仰向けにさせる。

 長い髪が地面に扇のように広がり、美しい顔が露わとなった。

「煉魁……様」

 震える唇で愛しい人を呼ぶ。

 どうしてここに煉魁がいるのか。そして自分はなぜ生きているのか。

 その理由の答えを頭に浮かべただけで、発狂して意識を失いそうだ。

 震えるほどの恐怖に心が支配される。身を切り裂くように辛い現実から逃れたい。

 思考を遮断しようとしているのに、涙で視界が歪む。

「嫌だ、嫌だ、嫌だ」

 琴禰は泣きながら、首を横に振った。

 こんなの嫌だ、耐えられない。こんな最悪な結末を受け入れられるわけがない。

「嫌だ、嫌だ、嫌だあああ!」

 煉魁を抱きしめ、琴禰は腹の底から叫ぶ。

 大人しい琴禰らしからぬ、怒りと絶望に満ちた心からの咆哮だった。

 状況から、煉魁が琴禰を守ったことは一目瞭然だった。

 爆発の瞬間、誰かに抱きしめられたように感じた。あれは、煉魁だったのだ。

 身を挺して煉魁は琴禰を守った。だから、今、琴禰は生きている。

 けれど、こんな悲惨な状況を作り出した張本人が、のうのうと生きていけるはずがない。
< 193 / 227 >

この作品をシェア

pagetop