あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
 煉魁は少し緊張しながら、螺鈿細工の装飾が施された障子戸を開けた。

「失礼します」

 煉魁の後に続いて中に入った琴禰は、部屋の造りの重厚さにまず圧倒された。

 床の間の欄干には鳳凰や舞鶴が生き生きと描かれ、床柱は名品である黒柿が用いられていた。

 そして畳には珍しく、寝台を使用していた。ずっと伏せっていると言っていたので、布団より寝台の方が、寝起きが楽なのだろう。

 上半身だけ起き上がり、寝台の背もたれに寄りかかった老輩の男性の目には険があり、痩せているが上背が高いので威圧感がある。

「父上、起き上がっていなくても大丈夫です」

 煉魁が駆け寄ると、大王は余裕のある笑みで制した。

「大丈夫。煉魁のお嫁さんが来ているのだ。見栄を張らせろ」

 大王はとても嬉しそうな笑顔で琴禰を見据えた。

 琴禰は、パッと顔を赤らめながら慌てて頭を下げた。

「琴禰と申します。ご挨拶が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした」

「悪いのは当然俺です。琴禰は今日まで俺に父上がいることすら知らなかったのです」

 煉魁も琴禰の横に並んで頭を下げた。

 すると大王は、愉快そうに目尻を下げた。
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