あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
「あやかし王~、ここにおられましたか。探しましたよ」

 肩を上下させてフラフラになりながら近付いてきた男がいた。

 丸みを帯びた瞳に卵型の小さな顔は整っている。漆黒の艶々とした濡羽色(ぬればいろ)の髪が額にかかり、人間のように見えるが、濃紺色の和服から覗く足は骨のように細く鳥の足に似ていた。

 小柄な背丈なので、あやかし王と並ぶと少年のように見えるが、歳は五十を超えている。しかしながら、あやかし国の宮中の中では比較的若い方だ。

 あやかし王と呼ばれた男は、気だるげに振り返る。

 漂う気品と威厳は、他を威圧する迫力がある。それに、他のあやかしの住民と違って、見た目は完璧な人間だった。

 力の弱い者は、姿が妖魔に近づいてしまう。よって、霊獣の尻尾のような物がついている者、手に鱗がついている者など様々だ。

完全なる人間の姿をしているあやかし王は、それだけで強大な力を有していることが分かるが、顔立ちが精巧な人形のように整っていた。

人を超えた圧倒的な秀麗さは、美が尊ばれるあやかしの国では優位な証だった。
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