あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される

私と結婚してくれませんか?

(真綿で包み込まれるような温かさ。こんなに穏やかな気持ちで安心して眠れたのは初めてかもしれない。ずっと、こうしていられたらいいのに)

 琴禰が幸せな眠りから目覚めた時、目の前には知らない男性が気持ちよさそうに眠っていた。

(ええ⁉ 誰⁉)

 絹糸のような綺麗な長い髪が顔に少しだけかかっている。驚くほど整った顔立ちだが、体が大きく筋肉質なので男性ということがわかる。
 しかもなぜかその男性は琴禰に腕枕をしていて、柔らかく抱きしめるかのように空いた手は琴禰の腰元に置かれている。

(どどど、どういう状態⁉)

 癖で枕元に置いた眼鏡を取ろうとして、動きが止まる。

(そうだ、私は祓魔から追い出されたのだ……)

 殺されかけた出来事を思い出すと、胸が締め付けられるように痛んだ。

 力を振り絞ってあやかしの国に行き、そして……。

(あやかし王と出会った)

 あやかし王は、気味の悪い姿をした獰猛な獣のような生き物だと聞いていた。

 しかし、琴禰が出会ったのは、目を見張るような美しい男性だった。
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