あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
「お前の名はなんと言う」

「琴禰と申します」

 名前を知ることができたので、あやかし王は満足そうに微笑んだ。

「琴禰か、良い名だな」

 あやかし王が愛おしそうに名を反芻したので、琴禰はなぜか気恥ずかしくなった。

 名前を呼ばれると、胸の奥がむず痒くなる。嫌ではない、むしろ嬉しく感じて、どうしてこんな感情になるのか不思議だった。

「あやかし王は、皆さんから何と呼ばれているのですか?」

 本人が、あやかし王と言うので、あやかし王と呼んでいたけれど、それでいいのか急に疑問が湧いてきた。

「皆、あやかし王と呼ぶ。もうあだ名のようなものになっている」

「そうなのですね、では私もあやかし王と……」

「いや」

 急に否定されたので、小首を傾げてあやかし王を見る。

「煉魁と呼んでくれ。それが、本当の俺の名だ」

「……れんかい、様?」

 真名で呼ぶ者は限られている。そもそも、あやかし王の真名を知る者も少ない。

 だからこそ、琴禰には本当の名前で呼んでほしいと思った。
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