あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
折檻部屋というのは、屋敷の地下にある座敷牢のことだ。

暗く湿った地獄のような場所で、琴禰がなにか粗相をすると父親に殴られてそこに放り込まれる。

 床は氷が張ったように冷たく、一晩そこで夜を明かすと体を病んでしまう恐ろしい牢獄なのである。

 琴禰はペコペコと頭を下げながら、屋敷のすぐ近くにある裏山へ走っていった。

「本当にあの子は、なにをやらせても鈍くさいのよね」

 母親の蔑むような物言いが、琴禰の背中に投げかけられる。

 胸が痛くなって、着物の衿をぎゅっと握った。

(私はいらない子。愛されない子。生まれてきてはいけなかった子)

 薄いボロボロの草履に裸足なので、固い草や小石を踏みしめるたびに足先が傷つく。それでも必死に走って裏山へと逃げ込んだ。

 トロトロ歩いていたら、怒った父親に殴られて、また折檻部屋に入れられるかもしれないからだ。

 無事に裏山に到着し、日当たりの良い場所を探して腰をかける。対岸には若葉が潤い、柔らかな土の中から初々しいフキノトウが顔を出している。

慌てて走ってきたので、足先は切り傷だらけだ。
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