あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
「私も一緒に入ったら、窮屈ではありませんか?」

「狭いのがいいのだ。むしろ広すぎるくらいだ。もっと小さなものにすれば良かった」

 宮殿の中にある湯殿は、確かに一人用とは思えないほど広かった。

 以前、琴禰が利用していた湯殿よりも広くて豪華だ。おそらく、全てが宮中にある物の中で一番高品質であることが窺える。

 湯の中に入ると、浴衣が体に張り付いて、体の輪郭が露わになってしまう。

 恥ずかしくて、とてもじゃないけれど振り返れないと思った。

「夫婦はどうして一緒に入るのでしょう」

「ずっと一緒にいたいからだろ。それに、何でも二人一緒の方が楽しい」

 楽しい……。その視点は琴禰にはなかった。

 いつも一人だった。誰かと一緒に楽しむという経験をしたことがない。

 食事もいつも一人だったし、話すこともほとんどない。

 これからは、いつも一緒なのだ。何をするのも、何を見るのも、一緒に楽しむ相手がいる。

「夫婦とは、いいものですね」
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