好きなのは、嘘じゃない。
こっちを向いて
「で、咲夜は今日こそは告白したの?」
優雅な夜ご飯時に
こんなことを突然聞いてくる親は
きっと、俺の母さんだけだと思う。
俺は口に含んでいた味噌汁を
吹き出しそうになる。
ごほごほとむせる俺を見て、
母さんはお腹を抱えて笑っている。
「…してねぇよ!」
どうしてバレてるんだって?
そんなもん俺が聞きたい。
これもまたある日突然
母さんが聞いてきたんだから。
咲夜、あんた今好きな子いるでしょって。
最初は嘘ついてその場を逃げていたけれど
やっぱり母さんに嘘は通用するはずなく。
…今に至るわけだ。
「咲夜、いいか。告白はメールじゃだめだ」
父さんまで参戦してくる有り様だ。
メールじゃだめだ、
なんて誰から聞いたんだか。
「うるさいな、わかってるよ」
…わかってる、それは俺が1番。
嫌なことを流し込むように水を飲んだ。
「彼氏ができても知らないんだからね」
母さんの言葉に
ふん、と返す。
…アイツに彼氏?
ないない。あるわけないじゃないか。
いつもフラれてんだから。
今回でなんと5回目だしな。
「大丈夫、アイツもう5回もフラれてるし」
…5回目だぞ?
5回目の奴が、そんないきなり彼氏なんて。
ないよな?
ないよ…な。
「すぐ他の誰かに取られるよ」
その言葉を聞いて俺は箸を置いた。
母さんは、まるで楽しんでいるようだ。
「思い切ってバックハグすればいいのよ」
…だめだ、
もう母さんは乙女のような顔をしているし。
父さんも何か言ってくれよと
目配せをするも
「咲夜。母さんはな、父さんのバックハグで恋に落ちたらしいんだ」
なにを言い出すのかと思えば
父さんはしみじみとした声で
母さんとの思い出に浸かり始めた。
「そうよ、咲夜。女の子はハグされちゃえば誰だってキュンとするものよ」
「そんなわけあるか!俺がしたら間違いなくぶん殴られるわ」
…そんなことをしたもんなら俺は
もう一生、春と話せないに決まってる。
だいたい、
ハグなんてする勇気持ち合わせてない。
告白だってできやしないんだから。
「咲夜、告白はタイミングよ」
「…はいはい!わかってますよ」
俺は残ったご飯を急いで食べ
片付けをして部屋に入った。
…タイミング、なんて
そんなのいつだよ。
春が失恋して泣いてるとき?
2人で一緒に帰ってるとき?
そんなもん、
もう何度も見逃しているじゃないか。
ベッドに倒れるように横になると
ピコンと通知音が鳴った。
俺は素早くスマホを取り、
メッセージを開く。
"先輩って本当に彼女いるの?"
案の定、春からのメッセージだった。
それも内容は例の先輩。
俺にメッセージすることは、
先輩の話しかねぇのかよアイツ。
そう思う反面と
メッセージがきて喜ぶ自分がいる。
"いるって言ってるだろ"
俺は乱暴にキーボードを打つ。
どうして、そんなに先輩がいいんだよ。
彼女がいるんだぞ?
それに、もう告白してフラれたんだろ?
どうしていつも
遠くばかりを見るんだよ。
"そうだよね…彼女いるんだよね"
文字を見るだけでも、今アイツが
どんな顔をしているのか嫌でもわかる。