好きなのは、嘘じゃない。
"どうせフラれたんだから、いいだろ"
送ってしまった時にはもう手遅れ。
もっと優しく言えばよかったと後悔した。
"そうだよね、もう忘れるよ!"
ごめん、春。
俺はお前が失恋して喜んでしまう。
春に好きな人ができたと
言われる度に内心ドキドキしている。
今回こそは、もうだめなんじゃないかって。
"忘れろよ"
忘れろよ、早く。
忘れて、早く──
* * *
俺が春を好きになったのは
もういつだったのか覚えていない。
出会ったのは、1年前の春。
隣の席で
やけにうるさい奴だな、
そのくらいの印象だった。
でも
気づけば、
表情がコロコロ変わる
春を目で追うようになって
気づけば、春を好きになっていた。
好きになった瞬間
アイツは好きな人ができた、なんて
とんでもないことを言いだした。
しかもその相手は
どいつもこいつも
俺よりも背が高くて、おまけに黒髪。
唯一の救いは
アイツがいつもフラれること。
…アイツは黒髪が好きなんだろうか
俺は生まれつき茶髪だから、
アイツの理想とは
かけ離れてるのかもしれない。
「…春って、黒髪が好きなの?」
いつだったか
気になって聞いたことがある。
「そんなことないよ?」
嘘つけ、お前の好きになる奴は
全員黒髪だっただろ?
茶髪の奴なんて見たことがない。
そんなことを気にしている俺はまだ
全然、子供だ。
「お前の好きになる奴、黒髪ばっか」
だからなに?と言いたげそうな春の顔。
染めようかな、と
口が開こうとしたのを
必死に抑える。
「私は、咲夜の髪の毛好きだけどな」
覚えている、
あの日初めて俺は
色素の薄い髪を
自分の髪を好きになれた。