とある賢者の執着愛ーー貴女を他の誰かに取られるくらいなら
 青年は左目が痛むのか、しきりに擦る。

「……つまりアンタの幸せはオリヴィアの幸せで、オリヴィアの幸せはアンタの幸せなんだろう?」

「は?」

 擦り過ぎた左目が充血していた。

「は? じゃなくて。金も名誉も要らないならさ、ただ側に居るだけでいいんじゃない?」

「ただ側に?」

「少なくともアンタはそれで幸せなのよね? あーやだ、やだ! アタシってばいつの間にか惚気を聞かされていたんだわ! 同じ名前でこうも違うなんて嫌になっちゃう!」

 オリヴィアと名乗った女性はカクテルを持ち、別の男へさっさと乗り換えていく。

 その際、左顔面を覆う青年に一度だけ振り返った。言い伝えによれば賢者メルキオールは青年の姿をしており、王権の象徴とされている。

「……まさかね。さて、アタシの王子様はいつ来ることやら」

 ふふと微笑み、ブラッディ・マリーを一口含むのだった。
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