とある賢者の執着愛ーー貴女を他の誰かに取られるくらいなら
 ジョシュアはオリヴィアの成長が生き甲斐で、唯一の誇りと宣言する。オリヴィアが犠牲になってまで家の繁栄を望まないとも。

 そんなジョシュアだから幸せになって欲しいとオリヴィアは願い、ダイヤモンドを託す。

(どうぞ、この先ジョシュアに降りかかる不幸は全て私に与えて下さい)

 獣に捕食する直面に置かれても、オリヴィアはジョシュアの幸せを祈るのであった。

 そして、オリヴィアの全身に王子の吐く生暖かい息が絡まり、ついに純潔を散らされる瞬間となる。

 オリヴィアの瞳から涙が溢れ、頬を伝う雫が赤く染まった。
 その瞬間ーー。

「ギャアアア!!」

 まさに咆哮が轟き、オリヴィアは慌てて身を起こす。彼女の素肌には王子の血と思われる色が跳ね、斬りつけられた当人が転がり回っている。

「私の花嫁に手を出すとは万死に値する」

 赤い満月を背中に現れた人物は王子を蹴り上げ、濡れた切っ先を無慈悲に振り上げた。

 オリヴィアは何が起きているのか状況が分からないながらも、王子に被さって庇うと叫ぶ。

「やめて! やめて!! 賢者様!」

 そこへ護衛達も駆け付け、凄惨な現場に固まってしまう。
 斬りつけられた王子、返り血を浴びたオリヴィア、そしてーー語り継がれてきた賢者メルキオールがその姿を見せたのである。
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