とある賢者の執着愛ーー貴女を他の誰かに取られるくらいなら
「なんで、なんで、賢者がーー」

 王子がオリヴィアの下で丸くなり、ガタガタと怯える。

 オリヴィアも咄嗟に賢者様と言ったが、赤い月と剣を携える姿はメルキオールそのもので。王子の振動が伝わり、オリヴィアも畏敬の念から震えが止まらなくなる。

 ダイヤモンドの祝福や呪いなど信じて来なかった彼女だが、この胃を押しつぶすかのような圧倒的な存在感に考えを改める他ない。

 一糸まとわぬまま前に出て、許しを請う。

「申し訳ありません。どうか、どうかお怒りを鎮めて下さいませ」

「ブラッドリーの娘よ、私との契約を違える気だったのか? 左右の目で虹彩の色が異なる娘が生まれたなら、それは賢者の花嫁の証。賢者の花嫁を娶ろうとすれば災いが起こるだろうと告げたはずだ」

 メルキオールは厳しい口調を浴びせる一方で、オリヴィアに外套を羽織らせた。

 その外套からする優しくて温かい香りにオリヴィアの涙腺が崩壊する。

「わ、私はブラッドリー家が所有するダイヤモンドが無くなればいいと思って参りました。ダイヤモンドがある限り、私達一族は開放されないと」

「おい! なんてことを!」

 子供みたく懺悔をし始めるオリヴィアを王子と護衛は止めようとした。が、メルキオールの剣が彼等に沈黙を指示し、オリヴィアには言葉を促す。

 本来ならば契約を反故にした罪により、剣で喉を掻き斬られても仕方ないオリヴィア。

「賢者メルキオール様はお伽噺の登場人物で、実在していたとしても数百年前の話。まさか、こんな風に……私、私は、申し訳ありません」
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