とある賢者の執着愛ーー貴女を他の誰かに取られるくらいなら
 オリヴィアは地に伏せ、非礼を詫びた。

「全てはこのブラッドリーの娘がいけないのです! 賢者様の花嫁の印が出ても王家へ嫁ぎ、一族を繁栄させようとしたのですから!」

 王子の保身はひたすら見苦しく、メルキオールは黒い瞳を尖らす。やはり粛清すべきと指先に力を込めたところ、オリヴィアが縋る。

「お止め下さい! 罰ならば私一人でお受けします。どうか、どうか」

 メルキオールはオリヴィアの涙を拭いかけ、既でとどまった。明らかに罰を与える仕草ではない。

「……王子よ、城に戻り私の事を王へ伝えよ。さっさと去れ!」

 腹の底に響く低い声で伝えると、王子は一目散に逃げていき護衛も後へ続く。あれだけ走れるのなら傷は大したものじゃないだろう。

 一人取り残されたオリヴィアは涙と泥と血液で汚れ、メルキオールの呆れた笑みを誘う。

「貴女は何をするのも全力だ。教育係だった私にも頭を擦り付けて謝罪していた」

 片膝を付き、オリヴィアの頬を撫でる。メルキオールは正体を打ち明けようとするが、とっくに気が付いていたオリヴィアは擦り寄り、微笑む。

「もう! この左目が赤くなった時に貴方が拐ってくれないからいけないのよ」

「私としては貴女が人と幸せになる未来を残してあげたかったんですがね。徒労に終わってしまいました。貴女を他の誰かに譲ろうなんて、どうかしていました」
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