とある賢者の執着愛ーー貴女を他の誰かに取られるくらいなら
「熊は無理だけど、ジョシュアに呪いをかけた相手にはひと言いってやらなきゃ!」

「ちなみに何と?」

 オリヴィアが急に黙る。それから手早く髪を梳き、顔の汚れを拭き取った。

「教えてあげてもいいわ。ただし、チョコレートを要求する!」

「チョコレートですか! 給仕服でないので持ち合わせていないのですがーー」

 お嬢様の我儘に賢者様も降参とばかり、両手を上げる。オリヴィアはそんなジョシュアの唇へ人差し指を添えた。

「チョコレートが無いなら口付けして誓って、ジョシュア。私は貴方が何者だって構わないの。ジョシュアと一緒に生きていたい、私にとってそれが幸せだから」


 鏡のように凪いだ水面へ赤い月が浮かぶ。
 かつてこの地に賢者が訪れ、とある一族に神託を与えたと伝えられる。

 賢者の呪いを解く“左右の目で虹彩の色が異なる娘”が生まれるまで一族を加護し、今宵その永き願いが成就した。

 祝福と呪いは表裏一体。

 オリヴィア・ブラッドリーが賢者メルキオールに嫁いだ経緯は王の口から語られ、新たなる伝説として語り継がれるであろう。
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