とある賢者の執着愛ーー貴女を他の誰かに取られるくらいなら
「旦那様、奥様、それからお嬢様。ここは一旦、お茶にしましょう」

 平行線を辿るやり取りに、執事兼オリヴィアの教育係である男が提案した。

「あぁ、ジョシュア! 丁度良い所に来てくれたわ!」

 オリヴィアは絶対的な味方の登場に手を叩き、歓迎する。
 ジョシュアとは彼女の側付きで教養、礼儀作法、時には物事の手の抜き方を手ほどきした。

 結婚話がたち消え、年頃の娘であれば泣き崩れるはず。それを泣かずに前をみ、現実と向き合う構えをとれるのはジョシュアのお陰だ。

 ジョシュアは高くない身分でありつつブラッドリー家に雇われ、こうして意見を述べるまで成り上がる。一見、大人しく物事の道理を重んじるようだが、その実、反骨心の塊みたいな男性だ。

 オリヴィアは彼を尊敬し、慕っている。まぁ慕っていると言っても異性としてでなく、家族として。一人娘の彼女はジョシュアに兄の要素を抱く。

「お嬢様はミルクティーで宜しいですか?」

 ティーカップへ言わなくともミルクと砂糖を入れて、笑顔を添えるジョシュア。

「えぇ、ジョシュアの淹れるミルクティーが私は一番好き。修道院へ行ったら貴方のお茶が飲めないのが残念よ」

「オリヴィア! まだお前を修道院にやるとは行ってないぞ!」

「……では、どうすれば? 未婚のまま屋敷に残り生活しろっと仰るのですか?」

 カップに口を付け、オリヴィアは肩を竦める。
< 3 / 27 >

この作品をシェア

pagetop