素直に気持ちを言えたなら
「おはよう」
「お、おはよう…」
玄関を出て、彼と朝から顔を合わせてしまった。少し気まずい。
「部活?」
「あ、うん」
「俺も今日は他校と練習試合」
「そうなんだ」
「今日も練習見に来るんじゃねーの?先輩スタメンだぞ」
「あ、いや、今日は私も部活抜けられないから」
それに、別に先輩の姿を見たいわけではないし。
「そっか」
桜並木を歩きながら、はらはらと落ちてくる桜の花びらに意識を向ける。
いつもなら色んな話題を振ってくれる彼が、今日は珍しく言葉数が少なかった。
今日の部活の試合は、大事な試合なのかな。緊張してるのかな…?
それとも、昨日の私の告白を、少しは気に掛けてくれていたり…。
そんなわけ、ないか…。エイプリルフールの嘘だって思われちゃったみたいだし。仕方ないよね、私のタイミングが悪かったのだから。
春休み中の学校に到着して、私達はそれぞれの部活に向かうため昇降口で別れた。
私は美術部に所属している。
春休み中に新入生歓迎のポスターを作製しなくてはならない。
昇降口入ってすぐの掲示板に貼る、「入学おめでとう」のポスターだ。
今年はそれを私が任されていた。
おおまかになんとなく春のお花を描こうかな、とは決めていたけれど、まだこれといってピンとくるものがなく、結局私は画用紙を見つめ続けていた。
少し外に出てみよう。何かイメージが掴めるかもしれない。
私は画版を持って、校舎を飛び出した。