前世へのレジスタンス
「なんで笑うの!?」
「フルネーム普通言う?www」

きっと今、この静かな海町とは離れた都会で仕事をしていたのだろう。
信号機の音、車の音、誰かの会話の声、私がいるこの狭い世界とは全く違う世界にいる人なんだなと感じてしまう。


「元気になった?体調大丈夫?」
「うん。運んでくれてありがとう」
「良かった。ははっ」


そんな違う世界にいる人と、こんな普通な会話をして楽しくなってしまう。
少し前だったら知らなかったんだ。

「今そっちは暗い?」
「うん。街灯もほぼないからね。」
「その方が落ち着くよね。」
「そっちは?」
「ずっと明るいし、人たくさんいるし、やっぱり慣れないな。ほぼ毎日来てるけど。」
「へぇーどんなとこなんだろう。」

私は想像をふくらませる。
実はしっかりした旅行に私は行ったことがない。
生活が大変だったから、行けなかった。
だから私の世界はこの町だけなんだ。


「カナ…」
「え、呼び捨て?」
「ダメ?」
「…いいけど。」

この狭い世界が電話越しから広がっていく感じがする。


「僕のことも名前で呼んで欲しいなー」
「え、無理」
「えぇ」

今はこの電話だけで私は精一杯。
必死にこのドキドキを抑えて電話しているんだから。
< 51 / 107 >

この作品をシェア

pagetop