前世へのレジスタンス

電車を少し乗って、私たちは渋谷にたどり着いた。

「うわぁ、人。」
「毎日だよ。こんなの。」
「無理。うちの方じゃ考えられない。」

花火大会でも何かイベントごとがあってもこんなに人がいる時は無い。

「カナはどこに行きたい?」
「うーん。なんかお腹すいた」
「僕もだ。そうしたら…こっち」

私は土地勘が無さすぎてとにかくついて行くしかない。
駅前から少し離れたところまで歩いていくと人通りが少し落ち着き、街の音も静かになる。
私はさっきまでの少しザワザワした鼓動がおさまるのを感じる。


「ここ。」
「え?」

渋谷という場所のイメージには合わない、どちらかと言うと地元にありそうなイメージの老舗の飲食店といった感じだ。
戸惑いながらも、金井くんがガラガラと鈍い音がする扉を開けてくれ、私もその後について中へと入る。


「お!ヒロちゃんいらっしゃい!」
「店長!」
「久しぶり!ヒロちゃん」
「おー!こんにちは!」

中はカウンター席が4つ、テーブル席が2つ。
椅子もテーブルも焦げ茶色の木製で、壁には和洋中問わず様々なメニュー名が手書きで白い紙に書いたものが貼ってあった。
常連さんもみんな金井くんの顔見知りなのか、金井くんはすぐに常連さんに囲まれている。
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