前世へのレジスタンス
やっぱりきっかけは、育ての親と言っても過言では無いタカコさんがきっかけだ。
悔いのないように生きなければ。

この世界に生きている意味なんてない。

そうやって育てられてきたからこそ、今を生きることを全うしたいんだ。
たかが大学受験ごときで、なんて言う人もいると思うけど、これは私なりの大きな決断なんだ。

金井くんは優しく見守ってくれる。
何か口出ししたり、アドバイスしたりすることもなく、ただひたすら私を信じてくれているのがわかる。


「私のことばっかり聞いてるけど、金井くんって、アイドルはこれからどうなっていくの?」
「あ、僕か…」

忘れてた、と言わんばかりにぽけっとした顔をしていた。
マスクしててもわかりやすい。
少し黙ったあと、『誰にも言わないでね』と前置きをして話し始めた。



「アイドルを辞めようと思ってる。」



まさかの返答に流石に少しだけ『えっ』と声が漏れてしまった。
確かにどんな返答が来るか予想がつかなかったけど、まさか、辞める…


「そんな深刻そうな顔しないでよ。」
「いや、私はまだ大丈夫だけど、ファンの人とか…」
「そもそも僕は気づいたらここにいた。自分の意思でこうなったわけじゃないんだ。」
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