孤独な心

Prolog

ーside 知紘(ちひろ)ー



俺は今年の春、小児科から呼吸器内科に移る子を担当することになった。


その少女は『楠 汐帆』



難治性の気管支喘息、IgA腎症を発症している。



それから俺にとどめにさしたのは家庭環境が荒れているということ。



それと、現在は1人暮らしをしていること。



しかも、前回の退院以来ここには来てなくて半年も経つ。



こんなにも長く来ていないとさすがに心配になる。



この子は今、生きているのだろうか?



それさえも、確認できないのか。



前の小児科の担当医は山城先生。



山城先生なら、おそらくこの子の心のケアをしてきたはず。



それなのに、どうして来ていないんだろうか。



明日、この子の高校に行ってみるか。



待て、冷静になれ。



患者にここまで立ち入ってどうする。



でもな、未成年で緊急連絡先もいないんだよな。


これでなにかあったら俺の責任にもなってくるし、行ってみるか。


この時はまだ、知らなかった。



俺が、一回りも年の離れたその子に本気で恋をするなんて。
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