孤独な心
ーSide 汐帆ー



千紘と暮らし始めてから半年が経っていた。



「汐帆、季節の変わり始めだから発作が起きやすくなってるから少しでも息苦しさを感じるようだったらすぐに吸入して。

吸入だけでどうにもならなかったらすぐに連絡して。」



季節は秋に変わり、肌寒さを感じる季節になっていた。


この季節は、外の空気も冷たくて少し呼吸をするだけでも冷たい空気が気管を刺激されて咳が出やすくなっていた。


特に大きな発作は起こさず経過しているけど、通院頻度は増えて今は1週間に1度は千紘先生の病院で薬の吸入を行っている。


先生が毎日診察をしてくれるからいち早く体調の変化に気づいてくれて今に至る。



「大丈夫。何かあったらすぐに連絡するから。」


「そうしてね。」


それから、いつも通り診察をしてから先生の車に乗って学校へ向かった。


「汐帆、無理はするなよ。」


「うん。」


「それじゃあ、学校終わったら連絡してね。」



先生と分かれてから教室に向かった。


朝のホームルーム。


いつになく、担任の先生は真剣な表情をしていた。



「今日は三者面談のプリントを配ります。そこに日程が書いてあるので親御さんと相談して、もし都合が悪い人がいたら教えてください。」


1年の冬。さすがに進学校だけある。


もう、この時期から面談が始まる。


「それから、もう1枚のプリントですが来年から文系クラスか理系クラス、就職クラスで分かれるので1週間ゆっくり考えてきてください。そのプリントをもとに今回の三者面談は進めていきます。」


私は迷わず就職クラスに丸をつけた。


別に、やりたいこともなければ夢なんてない。


それなら、お金を稼ぎたい。


先生から少しでも自立できるように。


だけど…憧れている人ならいる。


私は、その人みたいになりたい。


でも…そうなると…専門?大学?


いや、そんなの無理。学費なんて払えるわけない。


やっぱり、就職かな。


私は、プリントをファイルにしまって鞄の中に入れた。


千紘先生に相談しなくてもいいよね…。


「それから、楠さん。ホームルームが終わったら私のところに来てくれる?」


「え?」


「お願いね。」


「あ、はい。」


なんだろう。私何かしたっけ?


それからホームルームが終わり再び教室が賑わい出した頃、私は先生に声をかけた。


「先生…。私になにか…」


「あっ、いきなり呼び出したりしてごめんね。汐帆ちゃんの面談は早めにやりたくて。大丈夫?」


「え?」


「あまり深く考えなくて大丈夫だから。今は、主治医の方と一緒に暮らしているのよね。その人と相談して日程調整してほしいんだ。」


「…分かりました。」


なんだろう…。


みんなよりも1ヶ月も早い。


三者面談のプリントにはみんなの日程が載っているわけで誤魔化せるわけがない。


千紘先生にはなんて言えばいいんだろう…。


結局1日、三者面談の事が気になって授業に集中することができなかった。


私は、千紘先生に連絡せずまっすぐマンションへ帰った。
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