孤独な心
ーSide 千紘ー


気づいたら時刻は18時を回っていた。


学校がこんなに遅くなることなんて1度もなかった。


嫌な予感がして急いで咲月に電話をした。


案の定、咲月はもう既に家にいてとっくに下校時間が過ぎていることを告げられた。


汐帆の携帯に電話をかけても電話に出ることなく留守番サービスに繋がっていた。


俺は、急いでマンションへと向かった。


ドアを開けると、部屋が真っ暗で一気に不安になった。


急いで明かりを付けて、汐帆を探した。


「汐帆!」


ソファーに横たわる汐帆の存在に安心して、安堵の溜息が漏れた。


汐帆と連絡が取れないことなんて1度もなかったのにな…。


学校で何かあったのか?


いや、そんなことよりも…


呼吸が苦しそうだな…。


起こすのはかわいそうだけど仕方ないか。


「汐帆、汐帆!起きて!」


俺は、汐帆の体を揺すり起こした。



「先生…。あ!私、ごめんなさい!!」



「汐帆…。大丈夫だから。そんなことより今苦しいだろ?」


「え?」


「ちょっと、ごめんな。」


俺は、汐帆を膝の上に乗せてから片手で腰を支え聴診を始める。



「ちょ、ちょっと!」


「やっぱり、発作が出そうだから吸入しよう?」


汐帆はずっと俯いていて、吸入しようとしなかった。


前屈みになっている様子を見ると相当呼吸状態が悪いことが分かる。


俺は、汐帆の口元に吸入器を当て背中をさすりながら吸入をさせた。


咳をしながら吸入する汐帆を見てると、何とかしてやりたくて、でもこうやって発作を防ぎながら発作を抑えることしか出来ない自分に心が痛む。


この苦しみから開放してやりたいな…。


俺が、医者の人生をかけて喘息を治していきたい。


汐帆と暮らし始めてから半年間、発作の引き金になる物が段々と分かっては来たけど…


正直、発作の原因が定かになることはなくて確信を着くことが出来なかった。


根本的な治療はなくて、対処療法しか出来ない自分に打ちのめされる。


大切な人が苦しんでる姿を見るのは自分が想像していた以上に苦しかった。


だからこそ、完治とまではいかないとしても、1日でも長く発作を起こさずに生活出来る環境を整えて治療をしていきたい。


「汐帆。辛かったら我慢しないで。」


「ありがとう。」


それから、吸入器を外しもう1度聴診をする。



発作が落ち着き、呼吸も落ち着いた頃に汐帆に問いかけた。


「音はさっきよりも大丈夫になったから。それから晩ご飯ちゃんと食べたか?」


「まだ食べてない。」


「やっぱりか。何か食べられそうか?」


「あんまり食欲ない…」


「そうか…。だけど、少しでも食べないと体力がもたないよ。」


「でも…。」


「どうしても無理そうか?」


「少しだけなら…。」


「分かった。じゃあ、ちょっと待っててな。」


汐帆に毛布をかけてからキッチンへと向かった。


それから、お粥を作り汐帆に食べさせた。


汐帆の様子がいつもと違う…

それに、ここのところはこんなに大きな発作は起こすことなく安定していたのにな。
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