〜ずっと好きだよ~俺と彼女の溺愛生活
千香子は自宅マンションに帰り、カミソリを握りしめていた。

久賀の“キモッ”が、頭の中をぐるぐる回っている。

左手首にカミソリの刃を当てた。


『千香子さーん!』

不意に、虎徹の声が頭の中に響いてきた。


「あ…あ…」
カシャン……と、カミソリが手から落ちる。

ダメ!!!
ここで切ったら、虎徹くんとの約束が……!!

でも……
苦しい……!

スマホを取る。

“何かあったら、電話して!”

しかし、この程度で電話していいのだろうか。

“何かあったら”の“何か”は、どの程度のことなのだろう。

久賀に“キモい”と言われただけ。
何かされたわけでないし、普通ならこんな程度で自殺をする人間はいない。

私が弱いから、こんな程度でも死にたくなるってだけ。


すると……

〜〜〜♪♪♪

スマホの着信音が響いてきた。

“虎徹くん♡”の文字。

千香子は、電話に出た。

『千香子さん!!
今、何処!!?』

「あ…あ…」

『千香子さん!大丈夫、大丈夫だから…!
教えて?
今、何処にいるの?』

「う…家…」

『わかった!!今向かってるから!
千香子さん、大丈夫だから!
俺がいる!!
な?落ち着いて?
電話、切んないで繋げたままにしてて!
大丈夫だからね!
千香子さん、深呼吸しよう!
一緒に、すぅ〜はぁ~って…!』

虎徹の呼気に合わせて、ゆっくり深呼吸する。

『…………落ち着いた…かな?』

「うん…少し…」

『…………ねぇ…千香子さん、手、切った?』

「え…う、ううん…」  

『ほんとに?』

「うん…
約束…思い出し…て…」

『そっか…!
良かったぁ…
偉いなぁ、千香子さん!』

「え……」

『ちゃんと、約束守ってくれた!
偉い、偉い!』 

「………」


違う!!
偉くなんかない!

あんな程度で死のうとした、弱くてバカな人間。

『千香子さん?』

「違う…よ?」

『ん?』

「また、カミソリ、当てようとしたから…」

『でも、切ってないじゃん!』

「それは、虎徹くんの声が聞こえた気がして…」

『うん。
“そこが”重要だろ?
結果的に、千香子さんは切ってない。
これが、重要。
今までの千香子さんは、構わず切ってた。
だから…………』


「千香子さん、偉いよ!!」

声がして振り向くと、息を切らした虎徹がいた。
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