〜ずっと好きだよ~俺と彼女の溺愛生活
デスクに戻り、再度コーヒーを飲んだ虎徹。
息を吐いて、井野に向き直った。

「で?
井野はどうしたいの?」

「おろしたい」

「で?」

「彼にも、その彼の友達にも知られないようにしたい」

「…………はぁ…お前さ…」

「あー!!わかってる!!
勝手だし、最低だって言いたいんでしょ?
わかってる。
最低なことしてるし、最悪なこと言ってるってこと重々承知してる!」

「だったら、内緒でおろしに行くしかなくね?」

「うん…そのつもり。
それでね!
その……」
言いにくそうに、身体をモジモジさせる井野。

「何!?」

「病院、ついて来てくんない?」

「………」

「………」

「……………は?」

「お願い!!
一人じゃ、不安で……」

「やだ!!」

「お願い!!」

「つか、なんで俺?」

「だって、全く関係ないから」

「は?」

「彼やその友達に関係してる人だと、バレる恐れがあるでしょ?
原藤くんは、ただの同期。
だから、バレる心配ないかなって」

「でもやだ!」

「お願い!!
ご飯、奢るから!」

「やだ!」

「じゃあ…仕事!
代わりにやったげる!」

「は?やだ!」

「お願い!
原藤くんしかいないの!
あ!ほら!
この前、仕事代わってあげたでしょ!」

「は?
あ……」

千香子がまた自殺未遂するかもと、千景と天胡に呼ばれた時のことだ。
その時、ただ事じゃない事態に、井野が察して代わってくれたのだ。

「………」

「ね?助けて?」

「はぁぁ…
わかった!わかりました!」

虎徹は、渋々頷いたのだった。

 

それから、会社内で変な噂が流れるようになる。

「なんか最近、原藤くんと井野さんやけに親密じゃない?」
「あー私もそう思ってた!」

「でも、二人とも恋人いるよね?」

「え?じゃあ…
ダブル浮気?(笑)」
「えーやだぁー(笑)」

中絶手術のことで何度か外で会っていただけなのだが、それが浮気なのでは?と噂されるようになったのだ。

「でもさぁー、今日二人揃って休みってのも、怪しくない?」

「確かに〜!」



今日虎徹は、井野と隣町の産婦人科にいた。

「ありがと!原藤くん」
「ん。
これでチャラだからな?」

「フフ…はいはい!
あ、なんか食べて帰ろ?
もちろん奢るから!」

「いや、いい。
俺は帰る」

「あ、そう?
じゃあね!」

虎徹は井野に手を振り、自宅マンションに帰った。


その様子を、遠くから糸岩がたまたま見ていた。
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