〜ずっと好きだよ~俺と彼女の溺愛生活
「ん?」

「……………どうした?」

「え?何が?」

首を傾げる千香子にゆっくり近づき、千香子を包み込むように座った虎徹。

優しく頬に触れた。

「泣きそうな表情(かお)してる」

「そんなことないよ?」

「そんなことある」

「何もない」

「ほんとに?」

「うん。
虎徹くんが好きなだけ」

「フフ…俺も、好き!」

「ほんと?
私だけ?」

「うん!千香子さんだけ!」

「私だけ…」

千香子は、虎徹に抱きついた。
すると虎徹も抱き締め返し、頬を擦り寄せてきた。

“千香子さんだけ好き”

この言葉を信じよう。
香水の香りは、たまたま仕事が一緒の女性の物だろう。
あくまでも仕事。

千香子は、虎徹の腕の中で自分に言い聞かせていた。



後日。
仕事終わりに、ショッピングモールの中をうろうろしていた千香子。

リストバンドを買おうと、店にいた。

辛い思い出ばかりの左手首。
せめて、リストバンドをお洒落にして気分を上げようと定期的に買いに来ている。

キャラクター物から、ブランドまで沢山の種類を扱っているこの店には頻繁に来ていた。

「あ…ペアのリストバンドだ!」
虎徹と一緒にしたいなと思い、手に取った。


すると、不意に“あの香り”が漂ってきた。


虎徹に纏わりついている“あの香り”だ。

千香子がいるリストバンドが並んだ横に、ブレスレットが並んでいるコーナーがあり、それを見ていた女性から漂ってきたのだ。

(この人……虎徹くんの…?)

いやいや“たまたま”その人と同じ香水なのかもしれない。

頭を横に振り、払拭する。
千香子は、そのまま逃げるように店を出た。

夢中で走る。
すると向かいから来た誰かにぶつかった。

「「キャッ!!?(うおっ!!?)」」

「す、すみません!!」
「危ねぇなぁ!
…………え…あ!千香ちゃん!?」

「え?あ…ノブく……」
驚いた顔の糸岩がいた。

「大丈夫?」

「あ、うん。
ごめんね、前見てなくて……」

「ううん!
でも、どうした?」

「ううん」

「………」

「あ…じゃあ、私…行くね…」
小さく手を振り、すり抜けるように去ろうとする千香子。
しかしすかさず、糸岩が千香子の手首を掴み引き留めた。

「ねぇ!お茶しよ?
せっかくだし!」


有無を言わさず、糸岩は千香子の手を引きモール内のカフェに向かった。
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