【短編】ねぇ…キスして?
手を伸ばし
煙草に火をつけ
煙を出す慧にドキドキする。
やっぱり大人だって…。
『慧はクリスマスどうするの?』
「あぁ…仕事だろうな」
わかってた事だけど…ガッカリする。
詩歌の彼氏の部署は
比較的、時間の自由がきく。
だけど、慧の部署はいつも忙しそう。
今日はすごく早い待ち合わせで
驚いたぐらい…。
『そっか
身体壊さないように頑張ってね』
笑う事ばかりが上手くなっていく。
ベッドから起き上がり
衣服を身に纏う。
「帰るのか?」
『ん?…うん』
「送ってく」
『いい、いいよ。
慧はお仕事で疲れてるだろうし
駅から近いから。』
「でも」
『大丈夫』
本当は送って欲しい。
だけど
期待しちゃうから…。
欲張りになっちゃうから…。
一度望めば
止められなくなるのわかってるから
私は1人で慧のマンションを後にする。
これもいつもの事。
さっきまで一緒にいたのに
もう逢いたい。
熱くなる目蓋に視界が歪みそうになりながら
口唇を噛み締めて
振り返らずに歩みを進める。