【短編】ねぇ…キスして?

慧は私に気づいて

会話を手短に終わらせた。



「遅くにごめんな」



『ううん』



笑う私に

慧がホッとした表情を見せる。



「寒いからとりあえず乗って?」



そう言われて慧の車に乗り込んだ。



「どっか行きたいとこあるか?」



そう言いながら、慧はエンジンをかけ

暖房のスィッチを押した。




『ううん、ここでいい』



「えっ?ここ??」



これ以上、一緒に居ると


離れられなくなっちゃうから…。




俯いて、ブーツの足先を見つめ


大きく深呼吸をした。





『慧…もう…終わりにしよう?』




「…えっ?」



『慧と一緒にいても

ずっと遠くに感じてた。

もう疲れちゃった。』




「何…言ってんだよ?」



『イヴにこんな話してごめんね。

でも、セフレでいるのに疲れちゃった。


終わりにしよ?』



つま先から顔を見上げ


必死に作った笑顔。



私は笑えていますか?



慧には笑顔の私を覚えていて欲しい。



慧が出逢った日に言ってた。



―浮気したのはあいつの癖に

 泣きながら〝ごめん"って言い続ける顔が

 最後だったんだよな…。



笑ってたけど切なそうに呟いてた。



だから…私は慧に

泣き顔を見せれなかった。



今も泣きたいけど…泣かない。



慧と出逢えた事


慧を好きになった事


何一つ後悔してない。




グッと堪えて


唖然とする慧に


最初で最後のキス。



最後だから…一度だけ―――。



許してください。



軽く触れるだけのキス。



驚いて固まる慧。



『今までありがとう。』



溢れ出そうな涙を堪えて

ドアノブに手をかけた瞬間。




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