【短編】ねぇ…キスして?
背中に温もりを感じる。



―――なんで?



何で…慧…抱きしめてるの?



「あいつの所に…いくのか?」



―――あいつ?



切なそうな低い声が耳元で囁かれる。



抱きしめられている腕が微かに震える。



『…あいつ?…誰?』




「この前、待ち合わせた時

男と一緒に店から出てくる所見かけた。


同じ学校の男だろ?」





この前…待ち合わせた時?



って…恩田??



『恩田は友達だよ?』



…告られたけど。




「あいつ切なそうに真音の背中を見つめてた。

……いつからあいつの所に行こうと思ってた?」



意味…わかんないよ。



『恩田には告られたけど断ったよ』




「じゃあ、何でだ?

仕事で忙しくて放ったらかしにして悪かったと思う。


もう……ってか


最初から………気持ちなかったのか?」




あまりに理解出来なさ過ぎて…

抱きしめられた腕の中で

慧の方に身体を向けた。



―――なんでそんなに苦しそうにしてるの?




『な…んで?』




「真音から見たら7歳も年上の俺の事

恋愛対象にもならないと思う。」



『そんな事ない』



「はははっ」



慧の渇いた笑いが聞こえる。



「わかってたさ。


いつも連絡は俺からばっかだし

クリスマスも逢いたいって言わないし

始まりが始まりだったから…

気持ちを言いにくくかったし

真音の心がないってわかってた。


会った後、必ず送らせてくれないし…。

ずっと帰ってく真音を

ベランダから見つめてた。

一度でいいから振り返らないかなって…」




『う…そ』



―――知らないよ


気づかなかった。




「どっか連れてってやりたくても

真音は何も言わないし

あんまり人に見られたくねぇのかなって…。


制服姿とか嫌がるし…。」




「それは…」


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