アヤメさんと僕

がっぷり向き合う

彼女の来る日は気が重い。
相変わらず口うるさく指図され、時々ボロクソに罵倒される。
――僕はアンタの専属召し使いじゃない!
先輩たちの傍観のまなざしも痛い。
――見せもんじゃないぞ!
メンタルやられてこっちが慰謝料欲しいくらいだ。

しかしだ。
あんな小さな老女にビビっててどうする!
見くびられてたまるか。
あくまで指名するなら、いつか「参りました」と言わせてやる。
とことん向き合って、アンタの気の済むようにやってやろうじゃないか。

僕は腹をくくってマニュアル接客を捨てた。
心の中で上から目線に立っていたのを止め、自分を彼女より下に位置付けた。
――僕は寛大だから、アンタに(かしず)いてやるよ。

怒りをぶちまけられたときは腹が立つけれど、見れば丸まった背中は本当に小さい。
この体で辛苦を乗り越えてきたと思えば、少しは寄り添う気になれた。
「慈悲深い下僕」に徹しようと思った。
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