アヤメさんと僕
――今日が最後、もう最後。
突然告げられた別れに僕は混乱した。
3日に1度アヤメさんと喧嘩漫才するのが、すっかり僕の日常だったから。

もちろん、美容院にやってくるのが最後って意味だ。
だけど94歳という年を考えれば、もう2度と会うことはない。
今日が今生の別れだ。

何かできることはないのか。
あと10分もすれば、ブローは終わってしまう。
うーん……。
何もない。何も思いつかない。何もできない。

(アヤメさん、好きです。僕はあなたが大好きです)
いつもよりたくさんの真心を込めてブローすることしかできなかった。
< 17 / 21 >

この作品をシェア

pagetop