アヤメさんと僕
歩みはゆっくりゆっくりで、すぐそこの角までなかなかたどり着かない。
あの足で1年間も通ってきたのか。胸がキュッとした。

僕の未熟さも少しは役に立ったのだろうか。
僕をいびり倒す、いや、仕込むのを活力として、その分長く自宅で暮らせたなら。

アヤメさんも偏屈で時に感情的だったからこそ、僕を成長させてくれた。
頭でっかちの僕に、おざなりの接客ではない、カスタム仕様のサービスを叩き込んでくれた。
(アヤメさん、もうどんな客が来たって大丈夫な気がするよ。あなたほど手ごわい客はきっといないから)

ようやく彼女が曲がり角にたどり着き、僕は深々と頭を下げた。
涙がこぼれそうになって、しばらく顔を上げられなかった。
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