アヤメさんと僕
シャンプー台に案内し、髪に湯をかける。
「お湯加減いかがですか」
「少し熱いですわ」
しょっぱなから文句をつけられ、僕は少し緊張した。
もちろん適温に調整してからかけたのだ――が、慌ててぬるめに調節する。
シャンプーを一通り泡立て、再び問いかけた。
「かゆいところはございますか」
湯温とかゆい場所のお伺いは、施術のお約束。
お客さんも慣れっこで、おざなりの返事がほとんどだ。なのに――。
「襟足をしっかり……耳回りも丁寧に、そう……」
指示の多い客だ。気難しい人らしいな。
「老婆」としか認識していなかったが、タオルドライしながら改めて横顔を盗み見た。
おでこから鼻を通って口までの稜線が意外にもしっかりして知的だ。
――ひょっとして若いころは、いいとこの奥さんだったとか?
いやー、どうかなー。
話し方に気位のようなものは感じるが……。
ブローの最中は目をつぶり、眉間にも口元にもシワを寄せていた。
――この顔がこの人のデフォルトだろうか。
そんなに渋い顔してたら顔の筋肉が疲れそう。
この日は特段何事もなく終了した。
「お湯加減いかがですか」
「少し熱いですわ」
しょっぱなから文句をつけられ、僕は少し緊張した。
もちろん適温に調整してからかけたのだ――が、慌ててぬるめに調節する。
シャンプーを一通り泡立て、再び問いかけた。
「かゆいところはございますか」
湯温とかゆい場所のお伺いは、施術のお約束。
お客さんも慣れっこで、おざなりの返事がほとんどだ。なのに――。
「襟足をしっかり……耳回りも丁寧に、そう……」
指示の多い客だ。気難しい人らしいな。
「老婆」としか認識していなかったが、タオルドライしながら改めて横顔を盗み見た。
おでこから鼻を通って口までの稜線が意外にもしっかりして知的だ。
――ひょっとして若いころは、いいとこの奥さんだったとか?
いやー、どうかなー。
話し方に気位のようなものは感じるが……。
ブローの最中は目をつぶり、眉間にも口元にもシワを寄せていた。
――この顔がこの人のデフォルトだろうか。
そんなに渋い顔してたら顔の筋肉が疲れそう。
この日は特段何事もなく終了した。