アヤメさんと僕
変化が起きたのは、ブローし始めてからだ。

突然の噴火だった。
「アツッ! ちょっと、熱いやないか! 風も強すぎる!」
老女は怒りを振り絞るように大きな声を上げた。
「火傷したらどうしてくれますねんっ!」
「すみませんっ」
反射的に謝る。
「病院行くことになったら、アンタに医者代と慰謝料払ってもらいますでっ!」
「すみません……」
繰り返したが、彼女は鼻息荒く興奮している。
その剣幕に僕はむしろ冷静になった。

一呼吸おいて口を開く。
「申し訳ございませんでした」
道具を置いてから、体を二つ折りにし、頭を下げて見せると、彼女はようやく落ち着きを取り戻した。
介入しようとした店長がおしとどまるのが見えた。

その後は温度も風力も下げ、「これでよろしいでしょうか」と逐一お伺いを立てながら何とかやり遂げた。
< 4 / 21 >

この作品をシェア

pagetop