スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
結果として貢は成人した今でも結乃を気にかけ、頼んでもないのにボディーガードの役割を買って出ようとする。
(ありがたいことではあるんだけどなあ)
いくら兄でも恋愛にまで口を出されるいわれはない。
――本音を言えば一度くらい素敵な恋人を作ってみたい。
好きな人すらできたことないくせに、憧れだけが年々肥大していく。
しかし、結乃にも貢に迷惑をかけてきた負い目がある。
恋をしてみたいなんて、とてもじゃないが言い出せない。
「よし、頑張ろう!」
結乃は気を取り直し、表情を引き締めた。
今はとにかく母の分まで頑張って働かなければいけない。
気合いを入れた甲斐もあり、母がいなくともノエルの営業はつつがなく進んでいった。
イベントシーズンでもない限り、商店街の片隅にあるこの洋菓子店はさほど混雑しない。
ましてや、結乃の手に余るような悪質な客なんてやってくるはずがない。
……たったひとりを除いては。