スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
「おっ!あのうるさいババアはいないのか?」
それまで何かも上手くいっていたのに、午後になり兵頭がノエルへやって来ると、状況は一変した。
心なしかウキウキと声を弾ませる兵頭とは対照的に、結乃は表情は曇っていった。
母はギックリ腰でしばらく休みだと言ってしまえば、母を毛嫌いしている兵頭を喜ばせるだけ。
「は、母は……しょ、所用で外出しております……」
結乃は苦心の末に、当たり障りのない適当な理由をでっち上げた。
「所用、ねえ?ようやく移転先を探す気になったのか?」
「ち、ちが……」
「ほほーう。なにが違うんだ?大した店でもないのに強情なんだよ!」
母がいないのをいいことに、兵頭は言いたい放題だ。
揚げ足ばかりとって、楽しそうに結乃を虐げる。
しかし、結乃もなけなしの勇気を振り絞り、ここぞとばかりに言い返した。
「母も私も!ここから立ち退く気はありません!ま、前の地主さんとの契約はまだ残っているはずです!」
「ジジイが死んだらぜーんぶ無効にきまっているだろ?何度も言わせるな!」
「そんなっ!」
兵頭の言い分はどう考えても横暴だった。
結乃の勢いが削がれると、兵頭はニヤニヤと気色の悪い薄ら笑いを浮かべた。