スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
「今日はこのくらいにしてやる!」
兵頭は捨て台詞を吐くと、そそくさと帰って行った。
すっかり静かになった店内には、男性の落ち着いた声がこだましていく。
「……シュークリームとブレンドコーヒーひとつ。テイクアウトで」
注文を聞くやいなや、結乃は弾かれたように顔を上げた。
「シュークリーム……ですか?」
目の前の男性がいつも『シューさん』が食べるのものと、全く同じものをオーダーしたからだ。
「あ、売り切れ?それとも、コーヒーはテイクアウト出来ない?今日は食べていく時間がなくて……」
男性はどうしようかと口元に指を置き、悩む素振りを見せた。
よくよく考えると、男性の声は確かに聞き覚えのあるものだった。
もしかして……とその正体が頭をよぎる。
「い、いえ!大丈夫です!す、すす、すぐにご用意します!」
結乃はそう言うと男性に背を向け、慌ただしくテイクアウトの準備を始めた。
(ま、まさか!?『シューさん』なの!?)
テイクアウト用の箱と紙袋を用意する結乃の手は小刻みに震えていた。
兵頭から触られそうになった恐怖のせいではない。
毎日朝からシュークリームを食べにやってくる彼の豹変ぶりに驚き、興奮していたのだ。