スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い

(し、静まれ心臓……!)

 彼は気怠げないつもの様子とは異なり、どの角度から眺めても洗練された大人の男性そのものだった。
 汚れひとつなくピカピカに磨かれた革靴。
 いくつものギミックがある高そうな腕時計。
 黒縁の眼鏡はかけられておらず、アーモンド型の切れ長の眼がよく見えた。
 ネクタイの結び目に指を入れ首元を緩める色っぽい仕草に、ゾクっと鳥肌が立つ。

「お、おお、お待たせいたしました!シュークリームとブレンドコーヒーです!」
「ありがとう」

 彼は紙袋を受けると、どもる結乃に向かって穏やかに微笑んだ。
 下心満載の陰湿な兵頭のにやけ顔とは真逆の爽やかな笑顔だった。
 結乃がぼうっと見惚れていると、彼はそっと囁いた。

「次にあの男が触れようとしてきたら、遠慮なく警察を呼ぶといい」

 結乃がハッと我に返った時には、既に彼は背を向けた後だった。
 
「待っ……!」

 引き止める間もなく彼はカウベルの音とともに、ノエルから立ち去っていった。
 カウベルの余韻を聞きながら、結乃はレジの前で茫然と立ち尽くした。

(あの人は……本当に『シューさん』だったの?)
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