スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
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翌日、結乃はドキドキと胸を高鳴らせながら開店の時間を待っていた。
まだ頭にモヤがかかっていて、夢の中にいるみたいだ。
兵頭に怒鳴られているところに、颯爽と現れ結乃を助けてくれた男性が、あの『シューさん』かもしれないなんて。
彼は何者なのだろう?
「おーい、結乃!」
「え?あ、なに?」
「七号のケーキボックスふたつとってくれってさっきから何度も言ってるだろ?」
「あ、ごめん……」
「昨日からなんか変だな?夕飯も全然食わねーし……」
貢は何かを探るように、ふたつの瞳をジロリと動かした。
昨晩はなんだか胸がいっぱいになってしまって、絶対安静の母に代わり作った夕食もあまり食べられなかった。
昨日のことを正直に話せば、結乃がセクハラ紛いの行為を受けたことを話さなければならない。
気が長い方とは言えない貢のことだ。身勝手な振る舞いを大目に見てもらえた学生時代とは違う。大騒ぎにはしたくない。
「なんでもない!お母さんがいなくて、ちょっと疲れてたみたい」
結乃は指定されたケーキボックスを棚の上から下ろすと、「はいっ!」と元気よく貢に渡した。
「ふーん……。ならいいけど?忙しくなったら呼べよ?」
「う、うん!わかった!」
そんなやり取りをした数十分後。待ちかねていた開店時間がやって来る。