スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
目当ての彼は開店から三十分すると、ノエルに来店した。
扉を押し開くグレーのスウェット姿が目に入ると、ドキンと心臓が跳ね上がった。
半月型の唇がゆっくり開いていくと、結乃に緊張が走った。
「シュークリームとブレンドコーヒーひとつ。店内で」
「……はい。九百八十円です」
定型のやり取りを済ませると『シューさん』はいつもの席に座った。
結乃はトレーにシュークリームとブレンドコーヒーを載せると、しずしずと彼が座る窓際の席まで歩みを進めた。
「お待たせしました。シュークリームとブレンドコーヒーです」
「ありがとう」
テーブルに皿とカップを置くと、トレーを両手で胸に抱きかかえ、大きく息を吸う。
自分から話しかけるのは、相当な勇気が必要だった。
昨日の恩人と『シューさん』。
二人の共通点はシュークリームとブレンドコーヒーだけ。人違いという可能性だってあった。
それでも構わないと、結乃は覚悟を決め口を開く。
「あの……昨日はありがとうございました!」
結乃はお礼を言うと、彼に向かって深々と頭を下げた。
コーヒーに口をつけようとしていた彼はしばしの間、面食らっていたが、やがてカップをソーサーに置き直した。