スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
「ごちそうさまでした」
フルーツ大福をふたつ食べきった結乃は、空になった皿に向かって両手を合わせた。
さすがに一度に食べきれないので、残ったものは家に持ち帰ることにした。
母と貢のお土産になってちょうどいい。
「気になる点はない?」
「え?」
すっかり油断していた結乃は思わず聞き返した。
「洋菓子店の娘さんなら、舌が肥えてるだろう?率直な意見が聞きたいな」
柊登から率直な意見が聞きたいと言われ、結乃は頭を悩ませた。
生まれた時から洋菓子に慣れ親しんでいるとはいえ、結乃はパティシエでもないただの販売員だ。
「今のままでも十分美味しいですよ!私の意見なんてとても……」
「ノエルのケーキについているポップを書いているのは結乃ちゃんでしょ?」
「はい、そうですけど……」
得意げに言い当てられ、結乃は目をきょとんとさせた。
「いつも感心していたんだよ。ケーキの特徴や味が伝わってくる説明で。誰にでもわかりやすいように、あえて難しい言葉を使わないようにしているだろう?ノエルが地元の人から愛されているのは、ああいった丁寧な仕事があるからだ。うちの店でも見習いたいくらいだよ」
ポップは結乃が一番好きな作業で、いつも何を書こうか心を砕いている。
手放しで褒められると、結乃も悪い気はしなかった。
地味な作業にも価値を見出してくれた柊登に背中を押され、結乃は勇気を出した。