スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
その後の記憶は曖昧だった。
結乃はなんとか体裁を取り繕うことに成功し、柊登とは広場の入口で別れた。
足取りもおぼつかないまま帰宅の途に着く。
「ただいまー」
「おかえりー。随分と早かったのね」
「うん……」
結乃は居間にいる母と手短に会話を交わすと、フルーツ大福をダイニングテーブルの上に置いた。
貢は出掛けており、座布団を枕にしてひとりきりでテレビを見ていた。
「腰の具合はどうなの?」
「ぼちぼちってところ?大人しくテレビばっかり見てたわよ……」
最初の内は、トイレに行くのですら人の手を借りる必要があったが、痛み止めと湿布が効いたのか、母の腰は順調に快方に向かっていた。
「フルーツ大福もらってきたけど食べる?今、お茶淹れて……」
湯呑みを棚から出しかけたそのとき、結乃の目がテレビに釘付けになる。
結乃は即座に母を押しのけ、ガバッとテレビに張りついた。
「ちょっと、結乃!見えないじゃない!」
「こ、ここ!ここ、この人!」
結乃は口を金魚のようにパクパクと開けては閉じ、画面にアップで映し出されたある男性を指差した。
男性は予約開始から三十分で完売するという『濃厚ショコラテリーヌ』を番組のキャストに紹介していた。
母は孫の手で背中をかきながら、怪訝そうに眉をひそめた。