スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
「なーに?あんた『スイーツ王子』を知らないの?洋菓子店の娘にしちゃあ、遅れてるわね」
「『スイーツ王子』!?」
聞き慣れない単語に、思わず声が裏返る。
結乃が指差したのは間違いなく、先ほどまで一緒にベンチに座っていた柊登だった。
母はここぞとばかりに解説した。
『スイーツ王子』こと、御厨柊登はスイーツ界の風雲児として、業界に数々の風穴を開けてきたという。
小麦の産地すら見分ける『神の舌』と、時流を見抜く『千里眼』を巧みに操り、これまでプロデュースしてきた店は軒並み新たなトレンドを生み出してきた。
誰が名付け親かは知らないが『スイーツ王子』のふたつ名は今やすっかり定着し、手がけるスイーツに負けず劣らずの甘いマスクも相まって、今やテレビに引っ張りだこ。
絶賛、話題沸騰中の青年実業家なのだそうだ。
(柊登さんってそんなに有名な人だったの!?)
母の話を聞き終えた結乃は目が回りそうになった。
柊登が世間を賑わせている著名人とは知らずに、なんと気安く声を掛けてしまったのだろう。
無知な自分への恥ずかしさと後悔が同時に押し寄せてきて、思わず絶望する。
(私ってば偉そうに……!)
最悪なことに柊登に求められるがままに、彼が手がけるスイーツにアドバイスまでしてしまった。
(明日からどんな顔をして接客すればいいの!?)