スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
「お好きなお席でお待ちください」
結乃がそう言うと、彼は窓際のテーブル席に腰掛けた。マダム達がおしゃべりに興じる中、そこだけが別の世界のように静謐としていた。
注文されたブレンドコーヒーとシュークリームを準備しながら、結乃は心の中でそっと独り言ちる。
(いつもシュークリームで飽きないのかな?)
ショーケースの中には、亡き父から店を受け継いだ兄が腕によりをかけて作る絶品のケーキが所狭しと並べられている。しかし、彼が選ぶのは決まってシュークリームだった。
「お待たせしました。シュークリームとブレンドコーヒーです」
「ありがとう」
皿とカップをテーブルの上に置くと、彼は毎回律儀にお礼を言ってくれる。
配膳を終えた結乃はレジ前へと戻り、それとはわからぬようにそっと彼の様子を観察した。
窓際のテーブル席は結乃の位置からもよく見えた。
彼はいつもシュークリームとブレンドコーヒーを頼み、店内で食していく。
亡き父が三年の月日をかけて開発したシュークリームはノエル自慢のひと品だ。
ザクザクとした食感のクロッカンシューで、朝焼き上げたシュー生地に、特製のカスタードクリームをたっぷり入れ、仕上げに粉砂糖が振るってある。
甘いのに重たくなりすぎないシュークリームは、誰もが最後のひとくちまで飽きずに食べ切ってしまえるほど。
彼が毎日のようにノエルに通い、シュークリームを頼むのも頷ける話――ではあるが、彼が他の人とは一線を画すのはここからだ。