スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い

「すみません。騒がしくて」
「お母さんの腰の具合もすっかり良くなったみたいでよかった」

 柊登は気にした様子もなく、ジャケットの内側に入れた財布から千円札を取り出した。

「シュークリームとブレンドコーヒーお願いできる?テイクアウトで」
「今日は食べていかれないんですか?」
「これからまた出かけるんだ。来月オープン予定のカフェで内装工事の最終チェック」
「大変そうですね」
「結乃ちゃんの顔も見られたし、夜まで頑張れそうだ」

 さりげない一言に、ついドキリとさせられる。
 テレビ仕込みのリップサービスだとわかっているのに、やわな心臓はすぐに鼓動を早めてしまう。
 
「またね、結乃ちゃん」

 テイクアウトしたシュークリームとコーヒーを持ち。
 結乃は柊登の後ろ姿が見えなくなるまで、小さく手を振った。
 柊登の姿が見えなくなると、きゅうっと胸に小さな痛みが走る。

「ゆーのー!」

 結地を這うほどの低い声が背後から浴びせられ、結乃はギクンと肩を揺らした。
 サボるつもりはなかったが、母が鬼のような形相で立ちはだかっている。
 シラーっと白い目で結乃を見つめている。

「さ、さて!伝票の整理でもしようかなあ……!?」

 動揺のあまり声が裏返った。顔の火照りはまだおさまりそうもない。

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