スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
たとえ社交辞令でも心臓に悪いものは悪い。
結乃が唇に力を入れジッと耐えていたそのとき、入口のカウベルが鳴った。
「いらっしゃいませー」
その姿を認めると、身体が緊張で強張るのがわかった。
(あ……)
ノエルにやってきたのは兵頭だった。
恐ろしい記憶がまざまざと蘇り、ヒュッと喉が鳴る。
しかし、兵頭は柊登の顔を見るなり、そそくさと踵を返し帰っていった。
またあんな目に遭わずにすんで、結乃はホッと胸を撫で下ろした。
「あの人、この間結乃ちゃんに怒鳴っていた人だよね?何者?」
「この辺りの地主さんです。実は前々から立ち退きを迫られているんです」
「立ち退き?」
「あ、でも!私達も移転する気はないんです!」
立ち退きの話を聞いた柊登の表情がにわかに変わる。
「実は、ノエルに関してひとつ気になっていることがあるんだ。ネットの口コミは見てる?」
「いいえ」
結乃は首を横に振った。
そういうものがあるのは知っているが、特に気にしたことはない。