スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
◇
「結乃、起きなさい」
「……どうしたの?」
結乃は重たい瞼を擦りながら、ベッドから起き上がった。
窓の外を見ればまだ夜が明けたばかりで、空は薄紫色に光っている。
仕込みがあり朝から働く貢とは違い、母と結乃はいつも七時ごろ起床する。
起床を知らせる目覚まし時計はまだその役目を終えていない。
結乃を起こした母も寝間着のままだ。
「さっき、貢から電話があって、店が大変なことになってるみたい」
「ノエルが?」
早朝にたたき起こされるなんて、嫌な予感しかしない。
結乃達は急いで身支度をすると、急ぎ足でノエルへと向かった。
「なにこれ……」
変わり果てたノエルを見るや否や、結乃は絶句した。
朝日に照らされた外壁には、あの口コミのようにノエルをこき下ろす低俗な落書きが至るところに施されていた。
「誰がこんなことを!」
あまりの惨状に目を覆う結乃の背中を母がそっと撫でる。
貢の通報により駆けつけた警察が店を調べている間、三人は無言で立ち尽くした。
――誰がやったのか。
言葉は交わさずとも、なんとなく犯人に目星がついている。
しかし、決定的な証拠が出てこない限り即逮捕というわけにもいかない。
商店街に設置された防犯カメラに犯行現場が写っているかどうかは、運を天に任せるしかない。