スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
柊登が結乃達一家が暮らす一軒家を訪れると、にわかに緊張が走った。
「こうして改まってお話するのは初めてですね。経営コンサルタントをしております、御厨です」
名刺を差し出す柊登は、テレビの中と同じ実業家の顔をしていた。
「……わざわざご丁寧にどうも」
日頃は横柄な態度をとる貢も、今日ばかりはかしこまっている。
「この度はなんと言ったら……。皆様のご心中、お察しします。経営に携わる者として今回の事件は私も許せません」
柊登も犯人に対する憤りを隠せないでいた。
「結乃さんのお母様にいくつか伺ってよろしいでしょうか?」
「ええ。どうぞ」
「単刀直入に申し上げます。落書きの犯人に心当たりがございますよね?」
本当に宣言通りなんのオブラートにも包まれていない。
母は苦虫を噛み潰したような表情になり、無言を貫いた。
「立ち退きの期日はいつでしょうか?」
「まだ決まっていません」
「金額交渉は?具体的な条件は決まってらっしゃいますか?」
「いいえ?」
母からの聞き取りを終えた、柊登は眉根を寄せた。
「おかしいですね。具体的な期日も金額も提示しないまま、ただ立ち退きだけを迫られているとは……」
「立ち退きってそういうものなんじゃないですか?」
柊登は結乃の無知な質問にも丁寧に答えてくれた。