スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
「お忙しいのに、今日はありがとうございました」
帰るという柊登を家の外まで見送りにやってきた結乃は、深々と頭を下げた。
「あ、いや。お母さんとお兄さんの気持ちも考えずに、若輩者が差し出がましい真似をした。こちらこそ反省したよ。自分の店の経営が上手くいっているという驕りがあったのかもしれない」
柊登は口をきゅっと真一文字に引き結んだ。
移転の話を断られ、落ち込んでいるようにも見える。
結乃はたまらず口を開いた。
「柊登さんのスイーツに懸ける情熱をお母さんもお兄ちゃんもちゃんとわかってます。私も自分がケーキだったら柊登さんに食べてもらいたいです!」
そう叫んだ後で、「ん?」と違和感を覚える。
次の瞬間、慌てて口を手で塞ぐ。
(な、何言っちゃってんの!?)
自分のことをスイーツでたとえるなんて、ありえない。
モジモジしながら柊登を仰ぎ見ると、彼は声を押し殺して笑っていた。
「結乃ちゃんは俺を喜ばせるのが上手だね」
柊登の声色には元気が戻っていた。思惑とは違うけれど、ちゃんと励ませたみたいだ。
「でも、気をつけないと、本当に悪いオオカミに食べられちゃうよ?」
「え?」
ふわっとなにかが鼻をくすぐっていく。
ほんのり甘くて、爽やかな柑橘系の爽やかな匂いが柊登のものだとわかったのは、抱き寄せられた後だった。