スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
「お母さん、今から商工会の集まりに行ってくるからね!腑抜けた顔で突っ立ってるんじゃないわよ!」
「はーい……」
石蕗家では失恋に浸っている暇さえ許されないのだ。手厳しい。
母は支度をすると商工会議所に向かった。
柊登に調べてもらうだけではなく、商工会のメンバーにも立ち退きの件について聞いてまわるそうだ。
母が出かけると間もなく、店の電話が鳴った。
『結乃ちゃん?』
「柊登さん?」
電話は柊登からだった。
『悪いんだけど、これからシュークリームを三十個用意してもらえるかな?』
「三十個?差し入れか何かですか?」
『うん。スターテレビに。収録に呼ばれてるんだ』
スターテレビの名前が出てきて、ドキリする。
恋人であるアナウンサーもシュークリームを食べるのかと思うと憂鬱だ。
量が量だけに断ることもできたが、柊登が自分の店ではなくノエルに差し入れを頼むことに大きな意味を感じた。
落書きの一件以来、客足が鈍っていることを見抜いていたのかもしれない。
結乃はチラリと壁掛け時計に目をやった。
「今から作ると二時間ぐらいお時間をいただきますけど……」
『ありがとう。四時ごろ取りにいくね』
結乃は電話を切ると、柊登との会話をそのまま貢に伝えた。